福山通運健康保険組合

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ニュース&トピックス

[2005/12/26] 
めーるぼっくす 寒い季節の鍋料理

 寒い季節になると、鍋料理が思い浮かぶのは、日本人ならではの愉しみだが、鍋料理は日本だけのものではない。中国にもしゃぶしゃぶ風の料理があるし、スイスのチーズ・フォンデュやオリーヴ・オイルを使うイタリアのオイル・フォンデュなども鍋料理の一種と言えるだろう。とはいえ、ひとつの鍋を箸でつつき合うという親密さは、やはり日本だけのものだろうか。

 何を入れても構わないのが、鍋料理のいいところで、家庭ごとに独特の楽しみ方があってもいいわけだが、それだけに、よその家の鍋の中身が気にかかる。有名になったものとしては、作家、向田邦子考案の常夜鍋あたりか。用意するのは、豚ロースの薄切りとほうれん草。鍋にニンニク・ショウガを一片ずつ入れ、日本酒を満たし、煮立ってきたら豚肉とほうれん草を交互に泳がして食べる。大根おろしにレモン汁を絞り、生醤油で食べるものだから、さっぱりとしていて食べ飽きしない。一晩中でも食べていられるということで、ついた名前が常夜鍋。わが家でも定番のひとつになっている。

 『詩人の食卓』の著書がある高橋睦郎氏宅で御馳走になった鴨鍋も素晴らしかった。土鍋に豪快に酒を注ぎ、酒精を飛ばしてから鴨肉と京野菜の壬生菜(みぶな)を交互に入れて、生醤油をかけまわす。こくのある鴨肉とはりはりした京野菜の取り合わせが見事で、次第に鴨からだしが出て、さらに旨くなるというもの。さっそく真似をしてみたが、みりん等で甘みを加えても合うようだ。

 最近では、世界的な免疫学者、多田富雄氏のエッセイ集『独酌余滴』(朝日新聞社)を読んでいたら、面白い鍋料理に出くわした。お金はないが、お腹は空く学生時代のころ、仲間と酒盛りをするときに作るようになったものだという。鳥の手羽先をショウガといっしょにコトコト煮て、キャベツの乱切りを山盛りにして加え、カラシ酢醤油でいただくというもので、材料が安いうえに、つけた名前が振るっている。手羽先を天使の翼に見立てて、エンジェル鍋。面白がって作ってみたら、これがなかなかのもの。近いうちに友人に御馳走してみようと思っている。

 作家、池波正太郎風にアサリのムキ身と大根の小鍋立てで熱燗と洒落込んでもよし、随筆家、内田百間のように馬肉と鹿肉を揃えて、馬鹿鍋で友人たちを煙に巻いてもよい。鍋は実に自由な料理で、そこがまた、愉しい。

                                                          城戸朱理( 詩人)

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