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ニュース&トピックス

[2006/01/20] 
やすみじかん 日記は誰のためのもの?

 ブログって流行ってるんですよ、と年下の女友達Nが教えてくれた。「ウェブログ」の略で、個人が手軽にニュースや趣味についての意見を書けるホームページのようなものらしい。パソコンは使っているもののネット世界にうとい私は、ふだんは知人のホームページもほとんど見ないのだが、Nのおすすめページをいくつかのぞいてみた。
 その一つに、情報発信というより日記そのもの、秘密の恋の日々を綴っている若い女性のページがあった。率直で、ユーモアがあって、自己陶酔せず、それでいて切なさの伝わるいい文章だったのだけど、読んでいると、ぜんぜん知らない人のこんなプライベートな胸の奥に触れちゃっていいのかなと、私は夜半のパソコンの前でどきどきしてしまった。
 とはいえ他人の日記を読むのはやはり楽しい。ドラマチックな物語とはちがう吸引力がある。ネットではなく紙の世界では名作も多い。武田百合子『富士日記』や正岡子規『仰臥漫録』は、「ふかしパン、ピーナツバター、紅茶」とか「粥に牛乳かけて三椀 佃煮 奈良漬」とか、食べた物をただ列挙してある一日さえ妙に面白くて、貪るように読んでしまう(それにしても、なぜ日記にはお天気や食べた物を記したくなるのだろうか)。
 実は、私も日記を書いている(で、つい「卵かけご飯と賞味期限切れのお豆腐」などと書いたりするのだが)。もちろん誰にも見せないし、行った場所や会った人を四、五行でメモするだけの簡単なもの。めったに読み返すこともないが、たまに必要があってあの出来事はいつのことだっけと目を通すと、何だか不思議な気分になってくる。そこに書いてある場所や名前をまったく覚えていなかったりするのだ。もともと私は忘れっぽくて過去に拘泥しないたちではあるものの、数年前の自分ってほとんど他人だなあとしみじみ思う。アイデンティティなんていうと確固としたもののように聞こえるけど、本当は「自分」ってあやふやで、すぐに揺らいだり変わったりする、ちっともあてにならないものなのだ。そう考えると気楽かも。とりあえず日記は、いつか未来の自分が他人の日記を読むみたいに楽しんで読みそうな気がするから、大事に置いておかなくちゃねと考えている。
                                                                川口晴美(詩人)

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