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やすみじかん 参戦する?
最近、本屋へ行くと女性ファッション誌のコーナーについ足を止めてしまう。表紙に色とりどりの活字で記された見出しの文章が、驚くべき独自な言語世界を開拓していて、目を奪われるのである。「私映えする流行色」「ラフ姫ヘアでカジュアルグラマー」「女力養成メイク」(大リーグボール養成ギブスを連想するのは私だけ?)「最強キュートアイテムをハードに着こなす」(さらっと言っているけどものすごく複雑そう)。笑っていいのか感心した方がいいのか迷うけど、面白い。オヤジ系週刊誌なんて足下にも及ばない。
基本は、省略して単語をくっつけることのようだ。「安かわ服」は安くてかわいい、「大人可愛い」は(おとなしいではなく)大人っぽくてなおかつ可愛さもあるという意味で、「街はロマ辛旋風!」はおそらくロマンティックだけどピリッとしたセンスもあるということだろう。このあたりまでは何とか付いていけるが、「妥協なしの通勤ヘビーローテ靴」となると、ローテク?と一瞬思ったりするし(正解はローテーション)、「モテコーデ」がモテるコーディネイトだとは、考えないとわからない。ほとんど暗号解読だ。見出しからこうなのだから、中の頁にどれほど情報がぎゅうぎゅう詰め込まれているか、想像がつく。
だけど、見渡しているうちに「流行スタイル7番勝負」「攻めのシンプル仕事服」「着こなしバトル」などなど、戦いをイメージさせる言葉が多いことに気づく。衣服や装飾品や髪型や化粧を選んだり工夫したりするための情報をどっさり与えられるというのは、際限のない楽しみを手にすることであるのと同時に、武器を教えられ戦いを強いられることでもあるのだろうか。だとしたら、女の子たち、女たちはいったい何と戦って(戦わされて)いるのだろう。モテ服だのモテ道だの「モテる」がキーワードになっているということは、愛の獲得競争?
たぶん違う。「目指したいのは『意志のある脚』」「自分史上最高キレイの作り方」……そう、自分と戦えと促されているのだ。華やかな文字たちは、今の自分を否定しろと繰り返し囁きかける。「最終ゴールは『重力に負けない女』」だなんて、そんなゴールにはどう頑張っても辿り着けやしないのに。苦しみは楽しみのなかに潜んでいる。いや、苦しさのなかに楽しさがあるのだと、ファッション誌たちは主張しているのかもしれないけれど。
川口晴美(詩人)
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