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めーるぼっくす 真夏の背広
ハワイでの正装は、男性の場合、アロハシャツとスラックス。要するに短パンでなければいいわけで南洋の島ならではのおおらかさだが、日本の夏も決してすずしいとは言えない。
とくに近年はエルニーニョ現象の影響もあって猛暑がつづいた。それなのにスーツにネクタイ姿では、仕方がないとはいえ、大変だ。ネックが大きめのシャツを選ぶと、煙突効果で衣服内の温度、湿度ともやや下がり過ごしやすくなるというが、さすがに真夏日がつづくとそんなことでは追いつかない。
現在の男性のスーツは、百年ほどをかけてイギリスで作り上げられたスタイル。とくにロンドンのサヴィル・ロウは一流のテーラーが軒を並べる通りとして名高いが、これが日本語の「背広」の語源だとも言われている。明治時代以降、欧米のスタイルを取り入れてきた日本だが、背広という呼び方はスーツのシルエットにふさわしい、うまいネーミングだと思う。ただ、そのスタイルが日本の夏に適しているかどうかは、問題だ。ちなみにロンドンの夏の平均気温は二十度前後。オフィスにもクーラーがないのが普通で、そうした風土で育はぐくまれた衣服が、日本の猛暑に対応するものであるはずがない。
ところで洋服を取り入れる際に、日本で生まれた服もある。冠婚葬祭用の黒の略礼服というのが、それ。欧米では昼間の礼装はモーニング、略礼服がモーニングと同じコーズという縞のスラックスと黒のジャケットを組み合わせるディレクター・スーツ。夜間の正装は燕尾服(デイルコート)で、略装がタキシード。もっとも世界的に服装のカジュアル化が進み、欧米でもモーニングや燕尾服はあまり着用されなくなってしまったらしいが。ともあれ、黒の略礼服のスーツというのは日本だけのもの。海外からあれこれを取り入れながら、独自のものを作り上げてしまう日本人ならではの発明と言えるかも知れない。
となると、夏用のスーツも独自の発明があってもよかったのではないかと思えるのだが、こちらの方はうまくいかなかったらしい。残念。まあ、何にしろ夏は暑いもの。涼む工夫はしたいものだし、その姿勢が、逆に夏を楽しもうという気持ちを生むような気もする。
城戸朱理(詩人)
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