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やすみじかん 小心者の揺りかご
電車って、どうしてあんなに眠いのだろう。
私は決して寝つきがいい方ではなく……というより、寝つきの悪さにはかなり自信がある方だ。ふだんの夜は言うまでもなく、眠くて倒れ込むように床についた夜でさえ、意識を失うまでにはそれなりに時間がかかる。友達と旅行をしたり、恋人といっしょに寝たりするとき、相手より先に寝入ったことはたぶん一度もない。眠りかけてもちょっとした音や動きで覚醒してしまうし、途中で起きるとまたなかなか眠れなくなる。要するに、眠るのが下手なのだ。試験勉強するはずだったのに寝ちゃった、というようなことが起こらないのは助かるけれど、下手にもかかわらず眠ることの気持ちよさは大好きなので、困ってしまう。
ところが、そういう私が電車に乗って、座席があいていて座ると、すぐに寝てしまうのだ。とろけるようにまぶたが重たくなってきて、読もうとして開いた本もそのまま、隣の人にもたれかかってはいけないという意識をかろうじて働かせて姿勢を正し、あっという間にくぅくぅすやすや。夜の寝床では体を目覚めさせてしまう音や動きが、揺りかごのように心地よく昼間の体を眠らせるらしい。電車はお昼寝に最適の場所である。寝つくのに時間がかかるだけでなく、やらなくちゃならないことがいろいろあるのに何もせずに寝てはいけないんじゃないか、などという小心者的な感覚があって私はお昼寝が苦手なのだが、電車の中は「体が移動している」のだから何もしていないことにはならない。無意識にそんな言い訳ができるから安心して眠ってしまうのかな、とも思う。
山手線や地下鉄もいいが、いちばん効き目があるのは新幹線。東京駅を離れ、新横浜を過ぎるころにはもう意識がなく、名古屋あたりまでは「爆睡」状態。あまりにもぐっすり眠ってしまうので、目が覚めると首や肩が凝り固まってしまっていて、たいそう痛い。それで、最近は飛行機で使うエアクッション(膨らませて首に巻くように固定するアレですね)を持参し、心おきなく眠るようにした。新幹線の中でエアクッションを膨らませている人は他に見かけたことがないから、もしもそんな人がいたら、私かもしれません。どうか安らかに眠らせておいてくださいね。
川口晴美(詩人)
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