福山通運健康保険組合

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ニュース&トピックス

[2006/02/13] 
やすみじかん 甘味の官能

 TVでレストランを紹介するとき、料理にもれなくデザートがついていて「女性には嬉しいサービスですよね」とレポーターがにっこり微笑んだりする場面がよくあるのだけれど、そんなふうに女はいつも甘味を欲しがるものと決めつけた言い方をされると、サービスというより余計なお世話って気がしてしまう。甘いものが苦手な女の子だっているだろうし、別腹どころか食事でお腹がいっぱいになったあとにお菓子なんか食べたくないと感じる人も多いだろう。逆に、甘いものに目がない男性だってたくさんいるはずだ。
 私自身は甘いものはふつうに好きだが、ほとんど食べないのがチョコレート。自分が食べないせいか、スーパーで売られている透明なセロファンに包まれた一口大の立方体チョコの大袋を、私はずっと業務用だと思っていた。OL時代、同僚が机の一番下の引出しにまさにその大袋チョコを常備しているのを目撃し、ああ世の中にはチョコレートが好きで日常的に大量に食べる人もいるのだと、大げさに言えば世界認識が変わったのである。
 その話をしたら、実は私もチョコレート中毒(略してチョコ中)なんだと告白した女友達がいて、驚いた。キヨスクで新発売のチョコを見つけて買うと家まで待ちきれなくて電車内でこっそり食べちゃうとか、お酒も煙草もやらず自炊で暮らしているのに血液検査の結果が悪すぎて医者にチョコ禁止令を出されたとか、エピソードを披露する彼女はテレながらも何だか生き生きしている。子どもの頃、誕生日に叔母が贈ってくれた丸い缶にはきれいな絵が描かれていて、開けると宝石のように美しいチョコレートが二段に並んでいたという話をしてくれたときは、恋でもしているみたいにうっとりした顔になっていた。
 仕事を終えてから、待ち合わせて彼女のおすすめの店に行ったことがある。室温を一定に保つために入店人数を制限しているようなデパ地下の高級チョコレート屋。私たちはカフェコーナーでホットチョコレートを飲んだ。静かに互いの近況など話しながら、苦さの混じる甘さがあたたかく心身に染み入っていくのを感じると、たしかにこれは、大人でしかもちょっと疲れている女のための甘味かもと思ってしまう。もれなくついてくるデザートのように薄っぺらな安ものじゃなく、お子さまやマッチョたちにはないしょで、秘密の恋のように甘美に味わいたいものが、たまにはあるのだ。
           
                                                         川口晴美(詩人)

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