福山通運健康保険組合

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ニュース&トピックス

[2006/04/24] 
めーるぼっくす 「世界の家族」

 それは、十年前の東京で始まった。ひとりの写真家がある家族と生活をともにし、家財道具のいっさいを自宅の前に並べて家族全員とともに撮影する。世界三十か国で、ふつうの人たちはどんな物に囲まれ、どんな生活を送っているのか。写真家ピーター・メンツェルによるこのプロジェクトは、国連国際家族年だった1994年に一冊の本にまとめられ、日本でも出版された。『地球家族』(TOTO出版)である。
 日本人であっても、地域によって習慣というものはずいぶん違うものだし、ふだん、日本人が意識する外国の人々の暮らしといえば、欧米ばかりで、しかも、有名人に限られている。それだけに、さまざまな国のふつうの人たちの生活を家財道具という物を通して覗(のぞ)き見るかのようなその写真集は、実に興味深く、私は驚きに打たれるようにして、何度もページを開いたものだった。なんと、世界は広く、生活とは多様性に満ちていることか。
 ブータンの家族の持ち物というと、仏具ばかりで、牛を飼い、二ヘクタールの土地に米や麦、唐辛子、じゃがいもなどを作り、自給自足の生活が営まれている。電気は通っておらず、電化製品はまったくない。ウズベキスタンの家族はこれといった家財はないものの、色鮮やかな敷物やキルトだけは何十も所有している。モンゴルの家族は伝統的な天幕(テント)式住居「ゲル」で暮らし、キューバの家庭の冷蔵庫には、中庭で解体した豚の脚が一本、包まれもせず、そのまま放り込まれている。アルバニアはローマから飛行機でわずか一時間だが、14歳の子供は片道一時間半をかけて学校に通い、ロバに乗って40分をかけ、毎日、井戸まで水を汲みに行くのだという。
 私たち日本人が、ごくふつうだと思っている生活は、実は世界ぜんたいで見ると、先進諸国だけのもので、世界の全人口の二割に満たない先進国が、世界の物資の八割を消費しているというデータもある。生活というものは、毎日のことだけに当たり前のことと思いがちだが、どの国に生まれるかでまったく違うものになることを考えれば、この写真集は、生活というものを見つめ直すひとつの機会になるのではないだろうか。
 メンツェル氏は三十の家族に「今、いちばん欲しいものは何ですか」と問いかけている。イギリスの家族は「特にない」と、日本の家族は「もっと大きい家、賃貸用の不動産」と答えている。そして、内乱がつづくボスニアの首都サラエボで暮らす家族の答えが、とりわけ印象深かった。「平和」という答えが。
                           城戸 朱理(詩人)

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