福山通運健康保険組合

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ニュース&トピックス

[2006/05/22] 
めーるぼっくす「日本の家族」

世界三十カ国のふつうの人たちの家財道具のすべてを自宅の前に並べて撮影する写真家ピーター・メンツェルのプロジェクトによる写真集『地球家族』(TOTO出版)のことは先に紹介したが、その続篇(へん)が現在、進行中であるという。その様子がNHKで放映されたが、これがとても興味深いものだった。
 メンツェル氏はかつて訪ねた三十カ国の家族を再び訪ね、前回から7年を経て、家族がどう変わったかを尋ねて歩き、新しく増えた物を含めて家財道具を並べては、またシャッターを切っている。このプロジェクトは、二十世紀から二十一世紀への、ときに大きく、ときにはささやかな変化を、ふつうの人たちの「生活」を通して記録するものになることだろう。
 かつて天幕暮らしをしていたモンゴルの家族は、借金に追われながらもアパートに引っ越していた。新しく増えたものは、テレビ。ブータンの村には電気が通り、電灯の下で食事をしながら、父親は「天国に脱け出したような気分だ」と語っていた。六年連続で経済成長をつづけているキューバの家族の表情は明るく、新しい家電が増えていた。それに対して、日本の家族はどう変わったのだろうか。
 これが驚くべきことに、長びくデフレ不況下にあるにもかかわらず、前回、1214点というおびただしい家財道具に囲まれて暮らしていた東京、小平市の家族は家電や車を始め、923点もの家財を新しいものに買い換えていたのである。
 この結果には当事者も驚いていたが、不況、不況と言いながらも、実は買い物をしつづけて、狭い家を物であふれさせているのが、平均的な日本人なのかも知れない。
 トロイア遺跡を発掘したシュリーマンは、1865年、三年後に明治時代を迎える幕末の日本を訪れ、旅行記を残している。そこには、現在の日本人とはまるで違う民族のような当時の日本人の姿が客観的に描き出されていて、感慨深い。シュリーマンは、日本人を世界でいちばん清潔な国民と呼び、「日本の住宅はおしなべて清潔さのお手本になるだろう」と語っている。また、ヨーロッパのように家具調度を必要としない簡素な畳の生活に感嘆し、もしヨーロッパ人が日本の習慣を取り入れて慣れさえすれば、家具なしに「今と同じくらい快適に生活できるだろう」とまで言っているのだから、面白い。
 現実には、日本の方が欧米の生活習慣を取り入れてきたわけだが、千点を超える家財道具に囲まれて暮らしている現代の日本の家庭を考えると、シュリーマンを感嘆させた日本の伝統的な生活様式をまったく忘れ去ったのは、日本人だということになる。昔に帰ることはできないにしても、どちらが快適かを考えてみる必要はあるかも知れない。それは、生活のなかで本当に必要なものは何なのかを問い直すことでもあるのだから。
                           城戸 朱理(詩人)

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