福山通運健康保険組合

福山通運健康保険組合

文字サイズ
  • 小
  • 中
  • 大

ニュース&トピックス

[2006/06/23] 
めーるぼっくす ジーンズと日本的感性 

ジーンズ、1本が800万円。別に宝石をちりばめた高名なデザイナーのオートクチュールというわけではない。いわゆる労働着の、あのジーンズなのだが、1920年代に製造され新品のまま倉庫に眠っていたデッドストック。近年は日本でも十~二十代の若い世代に古いジーンズがヴィンテージと呼ばれて珍重されていて、数十万するものも珍しくない。
 人気があるのはジーンズを世界で初めて作ったアメリカのリーバイス社のもの。とくに'50年代まで古い力織機で織られた生地のモデルは染料のインディゴ・ブルーの色落ちに独特の魅力があるため、人気が高い。百万前後の高価なものでも買う人がいるというのだから驚く。まったく、何が起こるか分からない。
 ジーンズ独特のブルーは、天然インディゴの色で、防虫や殺菌効果があるため採用されたものらしい。もっとも、量産されるようになってからは天然染料ではなく、コールタールを主原料とする合成染料が使用されている。
 しかし、昨今の若い世代のヴィンテージ・ブームのため、わざわざ昔風のモデルを作っているメーカーもあって、インド正藍で染められたものや、蓼本藍を使って豊後絣を染める職人に特注したジーンズなんていう面白いものもある。
 ジーンズとしては高価だが、藍染めの風合いは実に美しいもので、私はこれも新しい民芸品と呼べるのではないかなどと思った。
 もう十年ほど前のことになるが、藍染めの生地を選んで、禅宗の作業着である作務衣をオーダーしたことがある。部屋着にしているが、洗うたびに鮮やかさを増していく藍という染料には驚きを覚えた。庶民的な普段使いの品々に新しい美しさを見い出し、民芸という言葉を創案したのは柳宗悦だが、藍染めにも華美なところはないものの、落ち着いた美しさがある。明治時代あたりまで、日本の庶民には「渋い」という美意識があったことを柳宗悦の民芸美論を継承する水尾比呂志氏も強調しているが、藍という色もそうした美意識を感じさせる。若者がジーンズの色落ちにこだわって高い代価を支払うのも、幅広い世代にジーンズが愛用されるようになったのも、案外、渋いという美意識になじんできた日本的な感性のなせるわざなのかも知れない。
                                                                   城戸朱理(詩人)

※ 営利、非営利、イントラネット等、目的や形態を問わず、本ウェブサイト内のコンテンツの無断転載を禁止します。  

ページ先頭へ戻る