福山通運健康保険組合

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ニュース&トピックス

[2006/07/17] 
やすみじかん よいお返事がしたい年頃

 大人になってからの「ならいごと」は楽しい。
 三年前に私がプール通いを始めたきっかけは腰痛対策(情けない……)だったのだが、オシャレなスポーツジムではなく、時間帯によっては子どもたちがキャーキャー走ってくるようなふつうのスイミングスクールで、母親ほどの年代の人たちに混じって一から泳ぎ方を教わるのは、思いがけなく楽しかった。私はそこのプールで、生まれて初めて背泳ぎをしたのだ。考えてみれば、誰だって赤ん坊のときは文字通り「生まれて初めて」のことの連続。でも成長するにつれ、人は初めてのことに遭遇する機会が減ってゆく。だからこそ大人になってから「生まれて初めて」のことを体験するのは、怖いけれども砂漠で飲む水のように衝撃的に体に染みとおる新鮮さがある。
 スイミングスクールのコーチは、「(体のこの部位を)こう動かすとこうなるからこれが出来るようになります」と、言葉でわかるように説明してくれるから嬉しい。もちろんわかったからと言ってすぐにできるようになるわけではないけれど、少なくとも学校の体育ではそんなふうに教えてくれなかった。じゃあ今日はグラウンド十周とか、フリースローの練習を順番に十五分とか、やみくもに走らされたり反復運動をさせられたりするだけの授業で、もともと運動神経が鈍くて体力のない私のような子どもは、いかにサボって楽にやり過ごすかしか考えていなかった。速く走るには足をどう動かせばいいか、遠くまでボールを投げるには腕のどの部分の筋肉を意識するのか、教えてくれたらもう少し違っていたかも。今の学校ではどうなのだろう、体育は楽しいのだろうか。
 言葉を使い、頭を働かせ、一生懸命自分の体と向き合っていると、たまに「うまくできましたね、もうひといき」などとほめられる。大人になるとほめられることなんてめったにないから、ジーンとして思わず「ハイッ」とこのうえなく良いお返事をしてしまう。
 頭脳系の習い事でもきっと同じ。知らなかったことを覚え、やったことのないことが出来るようになる瞬間、まだ私の体(頭)には未知の領域と可能性があったのだと発見する。それは本当に大きな喜びだ。だから大人は、子ども以上に心から、「ハイッ」と返事ができるお年頃なのである。
                           川口晴美(詩人)

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