福山通運健康保険組合

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ニュース&トピックス

[2006/07/24] 
めーるぼっくす 夏の味覚

「目に生新な青葉を見て爽快となり、何かなと望むところへ、さっと外題を取り換え、いなせな縞しまの衣をつけた軽快な味の持ち主、初はつ鰹がつお君が打って出たからたまらない。なにはおいても、となったのではなかろうか」。
これは陶芸家で稀代の美食家としても知られる北大路魯山人の文章。東京の人たちが、なぜ初鰹を喜ぶかを語ったものなのだが、たしかに鰹は、夏を感じさせる味覚といえるだろう。
江戸っ子は鰹を珍重し、女房を質に入れてもなどと言われたらしいが、面白いことに、鰹に夏の訪れを感じるのは、どうやら関東と関東以北に限られるらしい。その理由は、――――
鰹はサバ科の回遊魚で、春には九州南方、初夏には関東、そして盛夏には北東北の三陸の海岸近くに接近してくる。北海道南方まで至ると、今度は沖合いを南下し、ふたたび、南の海へと帰っていくのだという。二~三月に土佐や紀州沖で獲れる鰹は、まだ脂肪がじゅうぶんに乗っていないため刺身には向かず、表面を焙あぶった「たたき」にして土佐造りにしたり、鰹かつお節ぶしに加工される。それが、伊豆半島をまわって相模灘に入り、関東に近づくころになると脂肪が乗って刺身に最適となるのだが、それが初夏のこと。それで江戸っ子は夏の味覚として鰹を喜ぶようになったものらしい。
初鰹をこぞって高値で競せるようになったのは、文化・文政のころからだというが、勝かつ魚おとも書かれる威勢のよさが、江戸っ子の気性にぴったりと合ったのだという説もある。
私なども鰹の刺身を口に運ぶと夏を感じるひとりだが、これは東日本に暮らす人間にしか持ちえない感覚なのかも知れない。友人宅に招かれたとき、たたき風にオリーブオイルで表面を焼いた鰹に塩・こしょうし、レモン汁をたっぷりとかけたものを、スライスした玉ネギ、ニンニク、青ジソなどと一緒に供されたことがあったが、刺身とも違って、いくらでも食べられるような旨うまさがあって、いいものだった。
 それにしても、食べ物と季節感というものは、地域によってずいぶんと違うようで、そのあたりは本当に面白い。
                                                              城戸朱理(詩人)

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