福山通運健康保険組合

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ニュース&トピックス

[2006/09/15] 
やすみじかん すれ違いの悲劇と喜劇

土曜日の午前中に間違い電話が二回あった。
 正確に言えば、気が付いたら留守録に入っていたのだ。再生すると、聞き覚えのない女性の声がナントカという会社名を告げる。こちらのタナカ氏(もちろん仮名です)とそちらのサトウさま(同じく仮名)のお見合いの日取りですがタナカ氏が火曜日は都合が悪いということなので日程を調整しなければなりません折り返し電話を下さい……。エエッ?
 どうやら結婚相手紹介会社が別支店にかけようとした電話らしい、と推理するのに数秒かかった。以前、縁もゆかりもない不動産の契約書が間違いFAXされてきて笑ったことがあったけれど、知らない人にいきなり仲人役を求められるというのも驚く。最近は個人情報を保護するために、あちこちで名簿の管理を厳しくしたりシュレッダーを大活躍させたりしているようだが、人というのはときに笑っちゃうほどあっけなく間違いをするのだから、情報を完璧に守るなんてそもそも無理なんだよねとしみじみしてしまう。
 しかし、タナカ氏とサトウ嬢が本来なら相性ぴったりな運命の人どうしで、なのに間違い電話のせいで出会うことができなくなったとしたら、ちょっとした悲劇だ。現代は携帯電話があるから、昔のメロドラマ(見たことはありませんが『君の名は』とか)みたいなすれ違いの悲恋はなくなったと言われるけれど、そうでもない気がしてくる。通信手段が発達しているからこそ、過信してすれ違ってしまうことはありそう。相手先のFAXが紙切れだったら、パソコンがクラッシュしてメールが受信されない状態だったら、携帯電話をどこかに落としていたら。こちらは届いたものと思い込み、相手はこちらが送ったことも知らない。二度と会えなくなることはないにしても、気持ちがすれ違い感情がねじれていく事態はおおいにあり得る。
 留守録の二件目は一件目の一時間後、同じ女性が至急ですと言い添えて同じ内容を繰り返していた。仕方ない。私がサトウ嬢に連絡することはできないので、ナンバーディスプレイに記録されていた番号に電話をかけ、間違い伝言されていますよと伝えた。ナントカ会社の女性はかなり焦っていたようだったが、あれからタナカ氏とサトウ嬢は無事出会うことができただろうか。今日は火曜日。見知らぬ二人の行く末が妙に気になる。

                                                                        川口晴美(詩人)

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